アベノミクス政権下で企業統治に関する改革が進んでいます。平成26年6月24日に政府が発表した「日本再興戦略改訂2014-未来への挑戦-」では、日本企業の「稼ぐ力」を高めるために、コーポレートガバナンスの強化により経営者のマインドを変革し、グローバル水準のROEを達成することが一つの目安とされました。ここ1年間ほどで企業統治に関する施策が立て続けに行われました。
1. 投資家行動指針(日本版スチュワードシップ・コード)の策定
金融庁は平成26年2月、日本版スチュワードシップ・コードを公表しました。英国を先例として、OECDコーポレートガバナンス原則を踏まえて作成されたものとなります。同コードにおいて、金融機関等の機関投資家には、投資先企業に対する持続的成長の責任があることが明確にされました。これまで日本の機関投資家は安定株主として、ともすれば馴れ合いで物事が進められてきましたが、これからは物言う株主としての役割が期待されます。
平成26年12月の時点で、公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)を含む175の機関投資家が同コードの受け入れを表明し、各社のウェブサイトで具体的方針が公表されています。
2. 改正会社法が成立
平成26年6月、会社法の一部を改正する法律案等が成立しました。事業年度末日において公開会社かつ大会社である監査役会設置会社であって、その株式について有価証券報告書を提出しなければならない会社(典型的には上場会社)が社外取締役を置いていない場合には、定時株主総会において社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならないとされました。3月決算法人の場合、平成27年6月開催の定時株主総会から適用となる予定です。
上場会社には少なくとも1名の社外取締役を置くことが事実上義務付けられたと言えます。改正会社法ではさらに社外取締役の社外性要件が厳格化されることとなりました。しがらみのない独立社外取締役の役割が重視されつつあります。
3. 東証上場規則案の公表
平成27年2月24日、東京証券取引所が上場規則案を発表しました。平成26年12月に金融庁と東京証券取引所によって取りまとめられたコーポレートガバナンス・コード原案の実施を求めるものとなります。同コード案においては、独立社外取締役を複数名設置すればその存在が十分に活かされる可能性が大きく高まるという観点から、独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきであるとされました。その他、株式持ち合いに関する合理的な説明や役員報酬の決め方に関する情報開示が含まれています。直接の対象は東証1部、2部上場会社。適用は平成27年6月1日からとなるため、3月決算法人の6月の定時株主総会から適用されます。独立社外取締役が増えることにより、取締役会に規律を与えることが期待されます。
お見逃しなく!
平成27年1月14日、平成27年度税制改正大綱が閣議決定されました。平成27年4月1日以後に開始する事業年度については、法人税率を23.9%(現行25.5%)に引き下げ、法人実効税率は32.1%(現行34.62%)となる予定です(中小法人以外の普通法人の場合)。さらに、今後数年で法人実効税率を20%台まで引き下げることが明記されました。
法人税減税により企業の手元に残る資金は、株主への還元や賃金の上昇、成長分野への投資など有効活用されることが望まれます。企業統治に関する一連の改革は、法人税率引き下げの前提として株主側からも企業の内部からも企業価値を上げるように迫る仕組みを確立するものと言えます。