2017 年3 月期の株主総会において、会社が保有する自己株式を1 円で財団法人へ譲渡する議案をいくつかの企業が出しました。株主総会において3 分の2 以上の賛成を得やすいよう、財団法人への譲渡株式と同数を市場より自己株式として取得する希薄化防止策を併せて行うことが一般的です。このような議案は増加傾向にありますが、議決権行使助言会社は反対を推奨し世間の注目を集めました。また、最近になって財団法人の上場企業の持ち株比率が上昇していることについて、活動内容の透明化を求める声や会社にとっての都合のよい株主作りといった批判もあります。2017 年3 月時点において、上場企業230 社以上で財団法人が株主になっています(日本経済新聞2017 年6 月28 日)。財団法人が上場企業の株式を持つ理由は何なのでしょうか?
財団法人の活動
財団法人には、公益事業を主として行い国や都道府県の認可を受けた公益財団法人、登記のみで設立できる一般財団法人があります。公益財団は収益事業以外の法人税や源泉税が無税となる特典が与えられる代わりに、毎年の事業報告、決算書の提出が義務付けられ、これらの情報は公開が原則となっています。また、特定の団体に支配されないように財団の役員等については、特定の団体・親族の割合を3分の1 以下にしなければなりません。一方、一般財団法人にはそういった義務はありません。
財団法人の主な財源は寄附や有価証券の運用による利子・配当です。しかし、超低金利政策により運用資産の利息収入が年々減少しているため、利息収入による財団運営は厳しく、また日本の寄附文化の広がりは発展途上であるため、公益事業を行うに十分な寄附を集めるのは難しいのが現状です。このような環境の中で上場会社からの株式配当は財団法人を運営する上で貴重な財源となっており、この上場株式の配当が日本の公益活動の一部を支えている現実があります。
財団法人への株式割り当てが増えた背景
従来は上場を果たした企業オーナーが、個人の株式の一部を財団法人に拠出することにより、公益活動を行うことが一般的でした。また、企業オーナーから財団法人への株式寄附については、多額となる相続税の負担を軽減する一面もありました。
しかし、最近増加している企業からの財団法人への1 円での株式譲渡は、コーポレートガバナンスコードの適用による不透明な株式持合いの解消や、ROE 向上のため自己株式取得による自己株式の増加が背景にあるといわれています。また、寄附金として毎年財団法人に拠出するよりも、配当のほうが企業の損益に影響を与えずに安定的にCSR 活動ができることも一因と考えられます。
いくつかの議案を見ると、信託銀行を受託者、会社主導で設立されたと思われる一般財団法人を受益者とする信託を設定し、その議決権については信託銀行が行使するものとなっています。安定株主対策との批判を避けるための措置と考えられます。
お見逃しなく!
会社主導または創業者オーナー主導により設立された財団法人ともに、公益活動を行うことが主目的とされており、その事業についても創業者や会社の理念をベースとしているものがほとんどです。そういった公益性の高い財団法人が株主として存在することは、会社にとっても一定の存在価値はあると考えられます。
いずれにせよ、株式の譲渡や寄附を受けた財団法人の活動内容、役員構成、議決権の行使状況等が情報開示により透明化されているかが大切なことなので、国や都道府県から公益認定を取得するのもひとつの解決策といえます。