2019 年 12 月 4 日に成立した「会社法の一部を改正する法律案」において創設された株式交付制度が 2021 年 3 月 1 日に施行されました。3 月末には株式交付による株式取得に応じた株主の譲渡損益を繰り延べる旨を定めた 2021 年度税制改正が公布されたことを受けて、自社株式を対価とする M&A が活発化していくものと考えられます。
1.株式対価の従来の制度との違い
株式交付制度とは、株式会社(買収会社)が他の株式会社(買収対象会社)の議決権を 50%超保有して子会社化することを目的に、買収対象会社の株主に対して買収会社の自社株式を対価として交付する制度です。
従来から自社株式を対価として M&A を実施する手法として、株式交換、現物出資、産業競争力強化法による会社法の特例がありましたが、株式交換は買収対象会社を 100%完全子会社化することが前提の制度であること、現物出資は検査役の調査が必要であるなど手続きが煩雑であるという課題がありました。これらの課題に対処するために 2018 年に産業競争力強化法の特例が創設されましたが、事業再編計画の認定というハードルが存在していました。
2. 株式交付制度に関する税務(譲渡損益の繰り延べ)
株式交付制度の創設に合わせた 2021 年度税制改正では、買収会社が交付する対価の 80%以上が買収 会社の自社株式であることを条件に株式交付に応じた株主の株式譲渡損益が繰り延べられることになりました。金銭を交付した部分の譲渡損益は繰り延べの対象となりませんが、対価の20%までの範囲であれば自社株式にあわせて金銭を交付するいわゆる混合対価でも課税が繰り延べられます。
他の組織再編行為においては、対価として少しでも金銭を交付すれば税制非適格再編となり、譲渡損益の繰り延べが認められないため、この株式交付制度は企業買収を行うにあたって柔軟な対価設計ができる使い勝手のよい制度と考えられます。
3. 今後について
自社株式を対価とすることで買収会社の資金負担が軽減されることから、今後は、上場会社に限らず手元資金が豊富でないベンチャー企業や中小企業の事業承継対策においても株式交付制度の活用が進むと思われます。
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