TPP「環太平洋戦略的経済連携協定(Trans Pacific Partnership)」は、加盟国間の関税を撤廃し、サービス貿易、政府調達、競争、知的財産権、人の移動等の取り決めを含んだFTA(自由貿易協 定)、EPA(経済連携協定)の一つです(2011年2月 農林中金総合研究所『TPP(環太平洋連携協定)に関するQ&A』)。
この協定の特徴は、農業分野も含む例外なき関税の撤廃です。我が国も今年6月に参加の是非を決める予定でしたが、震災の影響で結論は延期されました。しかし、社会・経済に広く影響を及ぼすのは明白ですので、ここで現代版開国論の中身を検討しましょう。
TPPに参加する主な理由は、次のとおりです
(2010年10月 内閣官房『包括的経済連携に関する検討況』)。
(品目、分野によりプラス・マイナスはあるが、全体としては、実質GDPが0.48~0.65%≒2.4兆~3.2兆 増加)
これは、その国での生産に適しているものに生産を特化して輸出し所得を獲得しつつ、国内生産よりコストの安いものは輸入することにより、国内物価水準が下がり、マクロ的には実質GDPが増加するというものです。
国内生産よりも輸入した方がコストの安い分野のものは輸入されることになるので、機械、自動車などの輸出産業よりも、競争力が落ちる産業分野に属する企業は、非常に厳しい競争に直面することになります。繊維産業の空洞化は、まさしくこの事例です。
(韓国と米国とのFTAが発行すれば、日本企業は米国市場で韓国企業より不利になるので、TPP参加により同等の競争条件を確保)
韓国と米国は、自動車、トラックなどの関税をFTA発行後10年以内に全廃するのに対し、日本と米国間では、そのような協定がないため、米国市場では日 本製品は関税分割高になることになり、市場を失う恐れがあります。TPP参加は先行する韓国に追い付く手段となるわけです。
(TPPがアジア太平洋の新たな地域経済統合の枠組みとして発展してく可能性があるため、TPPに積極的に参加し、日本にとって有利なルールを作り、主導権を握る)
2国間協定では、第3国が入り込んで問題を複雑化する場合があります。
例えば、A国とB国の間には関税がないので、C国がB国を経由してA国に輸出しようと試みた場合などです。これには、原産地主義で対応するものの煩雑なので、多国間協定(ルール)をつくり、これを回避しようとするのがTPPです。
TPPは、モノ以外のサービス、投資等の分野でも自由化・規制緩和を含むため、全体的な効果はこれまでの2国間協定よりも大きいものになります。国益 上、ここで主導権を握ることは極めて重要です。TPPには中国が参加しないため、日本が参加すれば、日米で、加盟国GDPの約90%を占めるため、主導権 が握れます。
お見逃しなく!
オバマ政権は、アジア地域において経済・軍事で台頭する中国を牽制する戦略の一環として、積極的なTPP参加を日本政府に求めてきており、日本政府は 2011年1月に米国と協議を行い参加に進むと思われましたが、震災で結論は先送りになりました。この中途半端な状況で、日本政府は、5月22日に日中韓 の3カ国のFTAの共同研究の交渉を開始しました。オバマ政権からすれば、日本政府は、米軍の震災救援活動―トモダチ作戦―の恩を忘れ、TPPをやめて、 中国と組むつもりかと映ったにちがいありません。オバマ大統領は、次期首相にトモダチといってくれるしょうか。