2012年9月28日に「企業内容等の開示に関する内閣府令」が改正され、10月1日より施行されました。今回の改正で、売上高等の小さな会社に係る高額な対価による子会社取得が、臨時報告書の提出事由として追加されました。この改正の背景には、オリンパス事件(以下、「O事件」)があります。すなわち、同社が隠蔽した損失の解消スキームとして、比較的小規模な会社を実態よりも高額な対価により買収する手法が利用されましたが、従前の開示制度においては、開示の対象となるのは一定規模以上の売上高や純資産を有する会社のみであったため、このような事実が投資家に対して適時に開示されないという問題がありました。このような問題を解消することを目的として、今回の改正が行われています。
1. 買収価格が開示の対象に
今回の改正により、上場会社が子会社を取得するときに、取得の対価の額が純資産の15%以上となる場合には、臨時報告書の提出が必要になりました。また、取得の対価には、株式の売買代金のほか、子会社取得に当たって支払う手数料報酬その他の費用の額が含まれます。この背景として、O事件において、子会社の買収に際し、多額の資金が外部のアドバイザーに対し報酬等として支払われたことが問題視されていることがあげられます。
上記の提出事由に該当する場合には、臨時報告書において、取得する子会社の概要や過去の業績、取得の目的に加えて、取得の対価の額を開示しなければなりません。当該金額の合理性・適切性については、利害関係を有する株主や投資家の注目が集まると考えられ、経営者は説明責任を十分に果たす必要があると思われます。
2. 買収価格の合理性・適切性の判断
買収価格の決定に当たっては、通常、公認会計士やM&Aアドバイザー等により行われる企業価値の評価額が基準となります。ここで問題となるのが、企業価値評価については、画一的・統一的な手法は存在せず、また、評価に使用される事業計画等の情報は、評価額の算定を行う公認会計士等にとって所与のものとされていることです。買収企業の経営者は、その評価結果に無条件に依拠するのではなく、その評価額の合理性・適切性を判断するために、採用した評価手法の合理性・適切性や事業計画等の達成可能性について検討を行う必要があります。加えて、買収金額が企業価値を超える場合のシナジー効果や外部のアドバイザーの報酬についても検討が必要です。
企業買収も経済取引である以上、通常の商取引と同様に売り手と買い手の合意により価格が決定されます。したがって、双方の置かれた状況により価格は上下し、買い手がスピードを意識するあまりに買収価格が高騰することがあります。このような場合に、買収価格の合理性・適切性について十分な検討を行わず、むしろ高騰した価格を裏付けるような実態から乖離した事業計画に基づく企業価値評価等を入手した事をもって、買収にゴーサインを出すようなケースが想定されます。昨今の企業買収事例においては、買収後早々にのれんの減損を行う企業も見られ、そのような企業に限って歯切れの悪いプレスリリースが行われているところを見ると、十分な検討が行われていないケースも少なくないのでないかと推測されます。今回の改正は、このようなリスク情報を投資家が早期に察知するうえでも、有用であると思われます。
2012年7月6日に日本公認会計士協会から「公認会計士等が企業価値評価等の評価業務依頼された場合の対応」が公表されました。これは、会社名は明言されていませんが、O事件において公認会計士が実施した企業価値評価等の評価業務の結果を利用されたことに鑑み、重要な虚偽または誤解を招くような情報の作成や開示に公認会計士が関与しないように注意喚起を行ったものです。