個人に対する税務調査において、国外財産に係る課税強化がなされています。国税庁の報道発表資料によれば、平成22事務年度における相続税で申告漏れを指摘された件数と金額は、平成18事務年度と比較すると、それぞれ約2倍(62件⇒116件、26億円⇒59億円)に増加しています。また、外国為替証拠金(FX)取引などの海外投資や海外給与などの事由による所得税申告漏れの割合は、海外取引をおこなっている個人の調査に占める割合の76%となっております。
当局による国外財産に関する資料情報などの入手はどのようになされているのでしょうか。
1. 国外送金等調書による把握
国外送金等に係る調書の提出等に関する法律により、金融機関は100万円以上の国外送金や受領などの為替取引をおこなった顧客の住所氏名金額と送金事由などの情報を、税務当局に提出することが義務付けられており、海外取引の把握を実施しています。
2. 租税条約等に基づく情報交換による把握
日本が各国と締結している租税条約に基づいて、各国と連携して海外取引や資産運用の把握を実施しています。
≪情報交換の主な内容≫
「要請に基づく情報交換」:相手国の税務当局に必要な情報の収集を要請します。
「自発的情報交換」:税務調査で得た情報を相手国の税務当局に自発的に提供します。
「自動的情報交換」:調書で得た非居住者所得の情報を受領国の税務当局に送付します。
このほか、外国税務当局との「情報交換ミーティング」や「国際タックスシェルター情報センター」によって、国際的租税回避スキームの把握をおこなっています。
3. 日本とスイスの租税条約の改正
スイスは、伝統的に金融機関が情報提供の要請を拒んでいましたので、日本とスイスの租税条約には、条約締結国で唯一、情報交換規定が設けられていませんでした。一方、租税・マネーロンダリング等に対する国際標準の厳守を強化することが09年開催のロンドンサミット参加各国間で合意され、国際的な情報交換に対する要請が高まりました。
このような背景の下、昨年12月30日に日本とスイスの租税条約改正議定書が発効しました。改正議定書には、国際的な脱税および租税回避防止の観点から、国際標準に基づいた税務当局間の情報交換に関する規定が設けられています。今後、情報交換規定に基づき、相手国の税務当局からの情報提供の要請に対し、自国の課税のために必要でない場合であっても情報を入手するための手段を、相手国のために講じなければならないこととなりました。
お見逃しなく!
国外財産調書制度の創設
その年の12月末において、5千万円を超える国外財産を保有する個人に対し、翌年3月15日までに国外財産の報告を義務付ける法案が、1月に国会に提出されました。平成25年12月31日現在の国外財産が、最初の報告対象とされていますが、故意に、国外財産調書の不提出もしくは虚偽記載をした場合には、法定刑として1年以下の懲役または50万円以下の罰金が課せられます。
法案が国会で可決されれば、フローについては、国外送金等に係る調書、ストックについては、納税者自身による調書により、国際的な租税回避防止に向けた情報開示が義務付けられることになります。