2017年5月10日に、企業会計基準委員会から実務対応報告公開草案第52号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い(案)」等が公表されました。当該公開草案では、企業がその役員や従業員等(以下、従業員等)に対して権利確定条件が付されている新株予約権を付与する場合に、当該新株予約権の付与に伴って当該従業員等が一定の額の金銭を企業に払い込む取引(権利確定条件付き有償新株予約権。いわゆる有償ストック・オプション)に係る会計処理及び開示が提案されています。
現状の会計実務
現状では、有償ストック・オプションに係る会計処理を直截的に定めた会計基準はありません。そのため実務上は、新株予約権に係る会計処理に準じた会計処理が行われているケースが大半であると考えられます。この場合、従業員等から受け入れた金銭は新株予約権として純資産の部に計上され、新株予約権の行使又は失効が生じるまでは追加の会計処理は行われません。
有償ストック・オプションの性格
有償ストック・オプションには、権利確定条件として勤務条件(一定期間の業務執行や勤務)や業績条件(一定の業績の達成又は不達成)が付与されていることからすると、従業員等に対して勤労意欲の増進等のインセンティブを与える側面があり、従業員等から追加的な業務執行や労働サービス(以下、労働サービス等)を受け取ることを期待していると考えられます。その意味では、有償ストック・オプションは報酬等としての性格を有するといえます。
会計上の論点
一般的なストック・オプション(付与に伴って従業員等が金銭を払い込まない取引)は、従業員等によって提供される労働サービス等の対価として付与されると会計上は整理され、その報酬性に着目して費用認識されています。ところが、一定の額の金銭(僅少な額となることが一般的)の払込みを伴うと会計上は有償ストック・オプションとなり、上述のとおり費用認識されないケースが大半です。すなわち、いずれも報酬等としての性格を有するにもかかわらず、会計処理が大きく異なっています。
今回の提案
有償ストック・オプションも一般的なストック・オプションと同様に報酬等としての性格を有すると考えられることから、費用認識することが提案されています。なお、これまでに付与された有償ストック・オプションに適用した会計処理(費用認識しない処理)については、これを継続することも認められています。
経営に与えるインパクト
有償ストック・オプションは費用認識の必要がないという認識のもと、従業員等に対するインセンティブ策の1つとして、これを付与していた企業もあるかもしれません。しかし、一般的なストック・オプションとの会計処理との差異がなくなると、これを積極的に利用する理由はないと考える企業が増加し、付与される事例がなくなってくるかもしれません。
お見逃しなく!
最近では、税務上の手当てがされたこともあり、役員に対する特定譲渡制限付株式(一定期間の譲渡制限が付された現物株式を付与する取引。いわゆるリストリクテッド・ストック)など、報酬の手段が多様化しています。従業員等による労働サービス等の対価として、単に現金を支給するだけではなく、企業と従業員等の双方にとってメリットのある報酬体系を再検討してはいかがでしょうか。