1. 公的債務残高対GDP比率
1990年代バブル崩壊後の公共事業、近年の社会保障関連経費の増加により、平成23年度末の国及び地方を合わせた公的債務は、894兆円(対GDP比189%)に達する見込みです。経済成長が停滞している我が国が、公的債務膨張を押さえられるかを、経済成長と公的債務残高の観点から考えてみましょう。建設国債などは後世にも活用できるインフラ整備に関するものですから、借金そのものが悪とはなりません。問題は、経済規模と公的債務とのバランスです。これを測るものとして、公的債務残高対GDP比率があります。
2. 収束条件
公的債務残高対GDP比率が、一定の値に収束するか否かは、比率の分母・分子であるGDPと公的債務残高のそれぞれの増加率によって決まるとされ、この比率は、次の算式で説明できることが知られています。
翌年の公的債務残高対GDP比率増加率=
第1項【(金利 – GDPの増加率)×(当期期首の公的債務比率)】
+ 第2項【当期のPB対GDP比 × -1】
確実に公的債務比率を減少させるには、式の第1項の符号が負〔GDPの成長率>金利〕、第2項の符号も負〔PB=黒字〕の値を示す必要があります。すなわち、財政を持続可能なものにするためには、PB(プライマリーバランス=公債発行収入を除く歳入と公債の元利払を除く歳出との差額)の黒字化、と金利よりも高い経済成長が必要なことが、この式からわかります。
1999 | 2000 | 2001 | 2002 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 | 2008 | 2009 | ||
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第 1 項 |
国債金利 (10年もの 平均値) |
1.75 | 1.73 | 1.32 | 1.24 | 1.02 | 1.51 | 1.37 | 1.74 | 1.66 | 1.46 | 1.36 |
名目GDP 経済成長率 |
▲ 0.76 |
0.91 | ▲ 2.12 |
▲ 0.77 |
0.78 | 0.95 | 0.93 | 1.52 | 0.94 | ▲ 4.82 |
▲ 3.80 |
|
差異 | 2.51 | 0.82 | 3.44 | 2.01 | 0.24 | 0.56 | 0.44 | 0.22 | 0.72 | 6.28 | 5.16 | |
± | プラス | プラス | プラス | プラス | プラス | プラス | プラス | プラス | プラス | プラス | プラス | |
第 2 項 |
PB比率 | ▲ 6.0 |
▲ 4.6 |
▲ 4.4 |
▲ 5.7 |
▲ 5.5 |
▲ 4.1 |
▲ 2.9 |
▲ 1.8 |
▲ 1.2 |
▲ 3.1 |
▲ 7.8 |
× -1 = | 6.0 | 4.6 | 4.4 | 5.7 | 5.5 | 4.1 | 2.9 | 1.8 | 1.2 | 3.1 | 7.8 | |
± | プラス | プラス | プラス | プラス | プラス | プラス | プラス | プラス | プラス | プラス | プラス |
(資料:内閣府、財務省、総務省統計局HPより)
現実は厳しく、第1項、第2項ともに負ではなくプラスで、公的債務は、低い経済成長と財政赤字の二重苦で増大してきたと言えます。
お見逃しなく!
内閣府作成の「経済財政の中長期試算」(平成24年1月24日)の中、慎重なシナリオで試算した下記結果と、2009年の金利、PB比率189%見込を使い計算すると公的債務残高対GDP比率は、1年で約2%増加することになります。
・2013~2016年度の平均名目経済成長率は、2%強。
・2015年のPB対GDP比は、▲3.3%。
公的債務残高対GDP比率が収束するためには、少なくとも、利子率を超え、PB対GDP比率の赤字分を上回る成長率達成が必要ですが、政府が描くシナリオ経済成長率2%ではこれが達成できず、収束は極めて困難です。