1 ・ 新規上場の縮小とMBOによる上場廃止ブーム
2010年中の日本の株式市場における新規上場は22社。直前に上場がピークとなった2006年の新規上場数188社と比較すれば、実に約9割減の落ち 込みです。一方で、自ら上場を廃止する企業が相次いでいます。上場会社による完全子会社化のほかに、経営陣が会社の株式を買い取るマネジメント・バイ・ア ウト(MBO)の手法により、2010年には10社が株式市場を去りました。アパレル大手のワールドによるゴーイング・プライベートが話題になった 2005年以降昨年末までの間に、実に64社にのぼります。レコフ調べでは、今年に入り2月8日までの間に、MBOによる上場廃止を選択した企業は6社に のぼり、すでに昨年のほぼ半数に達しています。(2011年2月13日J-CASTニュース)
東証の斉藤社長は、MBOによる上場廃止が相次いでいることを受け、「(上場時に)高値で買ってもらいながら、株価が下落して株主がうるさいからといって上場廃止するのは投資家を愚弄している」と強い不快感を示しています。(2011年2月22日毎日新聞)
2 ・ MBOの問題点とは
会社の企業価値向上を担うべき株主の代表である取締役が、株主から会社の株式を買い取るMBOは、本質的に、取締役の利益相反行為を含んでいます。取締 役は、会社について正確かつ膨大な情報を有していることから、売主である株主との間に、大きな情報格差が生じます。買取価格が不当に低く設定される場合に は、取締役が不当な利益を獲得できる結果になります。
経済産業省は、2007年、「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針」を公表しました。これにより、株主 の適切な判断機会、MBO意思決定過程における恣意性の排除、適正価格を担保する客観的な状況確保といったセーフ・ハーバー・ルールが提言されています。
にもかかわらず、3月に上場廃止を決定した出版社の幻冬舎のMBOの場合には、昨年来、大口株主である外資系投資ファンドによるTOB買取価格の値上げ圧力・価格改訂が話題となりました。
MBOには、本来、株主・市場からの短期的利益圧力ではなく長期的な視点にたった経営戦略、株主構成をリセットすることによる柔軟かつ迅速な経営判断、上場維持コストの負担軽減などのメリットがあります。
しかし、最近のMBOの中には、建前の理由以上に、株主には見えない、株価低迷=MBO価格のお買い得感の算盤勘定が見え隠れするものも見受けられます。
3 ・ 中国市場のIPOブームと日本市場の将来
2010年、中国大陸部(香港、澳門、台湾を除く)での新規上場数は481社。前年度の実に2.35倍。資金調達額は8280億5900万元(約10兆 3,507億円)に達しました。(人民日報海外版データより)国別の新規上場数・資金調達額でも中国の躍進が、際立っています。
一方、日本では、先頃、新日本製鉄と住友金属工業の経営統合が発表されました。また、2月10日には、国内企業のM&A(合併・買収)を後押しす る産業活力再生法改正案が閣議決定されました。日本市場は、MBOによる上場廃止で非上場を選択する企業が増える一方で、グローバル競争に立ち向かう外需 産業を中心に、積極的な意味での組織再編、完全子会社化による上場廃止を選択する企業が増えそうです。