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内部統制の限界の克服 〜オリンパス事件を受けて〜

1. マネジメント・オーバーライド-内部統制の限界

3月決算の上場会社において、自らの会社の内部統制に重要な欠陥があることを表明した会社数及びその全体に占める割合は別表のとおりとなっています。金融商品取引法のもとでの内部統制報告制度は、正しい決算を行うことができる内部管理体制となっているか否かを経営者自らが評価して公表するとともに、公認会計士等が監査を行うものです。重要な欠陥が存在する会社はほとんどなくなってきている中で、今回のオリンパスのような不適切な会計処理が発覚しています。内部統制基準には、経営者による内部統制の無視(マネジメント・オーバーライド)は内部統制の限界として記載され、範囲外ということになりますが、一般的な感覚からすると釈然としないものが残ってしまいます。

重要な欠陥の会社数
決算期 会社数 比率
2009/3 56 2.1%
2010/3 22 0.8%
2011/3 8 0.3%

2. パワー・ハラスメント-悩む経理部長

現実の問題として、決算が近くなると経営者が経理部長に利益目標達成の圧力(パワー・ハラスメント)をかけるケースが時々あります。内部統制基準ではマネジメント・オーバーライドを限界としながらも、一方でこの限界への対応として次の項目を評価項目の真っ先に掲げています。

経営者は、信頼性のある財務報告を重視し、財務報告に係る内部統制の役割を含め、財務報告の基本方針を明確に示しているか。

実際の評価では、当たらずとも遠からずの内容が記載された年頭所感や社内報を根拠資料として集めるだけで済ませることが一般的となっています。時には、この評価項目の為だけに新たな社内文書を作成しているケースもあります。本来は、粉飾に陥りやすい経営者かどうか、経営者からの粉飾圧力に対して「右手に会計原則、左手に証券監視委員会への情報提供」をかざして経理部等がどの程度対抗できるかを評価しなければなりません。実証的な証明が難しい作業となりますが、この評価で内部統制の土台が評価されることになります。評価項目が与えられ、それに対して何らかの書面があればよいという形式的な手続論に終始してしまっている場合は評価作業を是正していく必要があります。

3. 社外取締役-切り札か?

限界の克服として、会社法では社外取締役をはじめとするガバナンスの強化が検討されていますが、それも完全ではありません。社外取締役といえども経営者がその候補者を選出しており、また、月に1度の取締役会に出席するだけでは、適切な判断の為の情報が不足していることがあります。
オリンパスの第三者委員会の報告書にも記載されていますが、マネジメント・オーバーライドを防止する切り札はなく、様々な制度による対応で防止していくことになります。

お見逃しなく!

マネジメント・オーバーライドを制度によって完全に防止することが難しいとなると、投資家サイドとしては自己防衛する必要が出てきます。IFRSの影響で日本の会計基準にも見積りや判断の要素が多く採用され、将来キャッシュ・フローの現在価値を基本にした貸借対照表が投資判断として重視される方向で進んでいます。一方で、過去の事実としての経営者の姿勢はキャッシュ・フロー計算書に反映されます。フリー・キャッシュ・フローがプラスなのか、有価証券投資や貸付金にどの程度の支出を配分しているか、十分な資金残高がありながら借入金による資金調達を増加させていないか、などは初歩的なことですが投資対象の会社について検討しておく必要があります。会計方針や見積り項目に左右されない実績としてのキャッシュ・フロー計算書にも注目していくことが必要になります。

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