~民法(債権関係)の改正に関する中間試案より~
現在、法務省は契約に関する規定を中心に民法の改正を検討中ですが、そのひとつに法定利率の見直しがあります。現行民法は、特約がない限り利率を年5分(5%)と定めていますが、通常の金銭消費貸借契約では利率について特約があることが多く、法定利率が適用されることは少ないと思われます。ただし、債務不履行などによる損害賠償債務について事前に遅延利息を取り決めることはまれであり、そのような場合に重要な役割を果たします。しかし、5%という利率は近年の市場金利から乖離しており、様々な弊害が生じるとの指摘があります。以下、例を挙げて検討します
1. 現行の法定利率の問題点
AがBに損害賠償請求訴訟を提起し、1審でAの請求が認められBに損害賠償の支払が命じられた。1審判決まで1年が経過している。
損害賠償債務は請求された時点から履行遅滞に陥るため、Aは賠償額に加えて判決までの約一年分の利息を受け取ることができます。そうすると、仮にBに資力があり訴訟の形勢がA有利ならば、Aとしては二審に持ち込んで訴訟を引き伸ばした方が、より多くの金利を獲得し得ることになります。逆にBとしては利息分の増加を避けるために、2審で争う意思があっても、1審判決後に利息及び賠償金を仮払いして履行遅滞に陥ることを避ける必要があります(2審で勝訴すれば、支払った金額は戻ってくる)。
法定利息の趣旨は、被告が賠償金等の未払いにより得ている利得を清算させることにありますが、現実の運用で獲得困難なほどの利率が適用され、訴訟引き延ばしのインセンティブになりかねない状況は不合理と言わざるを得ません。そこで、近年の金利情勢に合せるべく、法定利率に変動制の導入が検討されています。
2. 2 法務省の改正試案の内容
現在の中間試案(以下「試案」)の内容は以下の通りです。
① まず、法定利率を3%とする(3は仮の数字で、今後の検討にゆだねられる)。
② 連動させる指標として基準貸付利率(かつての公定歩合)を用い、当該利率の変動幅が0.5%以上の場合に①の法定利率を改定する。
③ 見直しは0.5%刻みで年に1回行う。
この方法は非常に緩やかな変動制で、過去十数年を例にとると、法定利率が実際に変動することはないと言われています。そのため、固定制を維持し、必要に応じて利率を見直せばよいという意見もあります。しかし、必要が生じる度に法改正を行うのは手続的に煩雑であること、また、変動ルールを法で定めれば利率変更の予測可能性が高まり取引の安全も確保できることから、変動制が試案として提案されています。
試案の提示する3%の妥当性や変更ルールを民法で定めるか政令で定めるかなど検討すべき点はありますが、変動制の導入というこれまでのルールからの大きな方向転換が予想されるため、今後の改正の動向に注意が必要です。
お見逃しなく!
なお、商法においても年6分(6%)の法定利率が定められています(商事法定利率)。試案では、「民法の法定利率につき変動制を導入する場合における商事法定利率(商法514条)の在り方について、その廃止も含めた見直しの検討をする必要がある。」と指摘しており、こちらについても今後の動向に注意する必要があります。