2013年6月14日に政府が打ち出したアベノミクスの第三の矢「日本再興戦略」において、現状4.5%(2004年から09年までの平均値)である開業率・廃業率を10%台に目指すことが盛り込まれました。産業の新陳代謝を促すことが求められる中で、2013年12月5日、全国銀行協会と日本商工会議所により「経営者保証に関するガイドライン」が発表され、2014年2月1日から適用開始となりました。
1. 1 保証債務の整理
これまで中小企業が事業不振により会社が破産する場合には、保証債務により経営者も破産するほかありませんでした。その場合、経営者個人の手元に残るものは、99万円までと定められており(破産法34条3項1号)、自宅、自動車、生命保険、預貯金など、99万円を除いて全てを失うこととなりました。経営者は生活基盤を失い、再チャレンジすることが非常に困難となることから、思い切った起業や事業展開を阻害する要因となっていました。
本ガイドラインでは、保証人である経営者が早期の事業再生等の決断をした場合で、一定の経済合理性が認められる場合には、破産法に定める上記99万円を超えて一定期間の生計費や華美でない自宅等を経営者の残存資産に含めることが可能となります。また、本社、工場など、会社が事業継続する上で最低限必要となる資産を経営者が所有している場合、経営者個人が会社に対して当該資産を譲渡することにより、当該資産は保証債務の返済原資から除外されます。
2. 2 経営者保証に依存しない融資の促進
経営者が個人保証を提供することなしに資金調達することを希望する場合には、法人と経営者との関係を明確に区分・分離し、財務基盤を強化し、経営の透明性を確保することが求められます。こうした整備・運用の状況については、外部専門家による検証を実施し、その検証結果と合わせた情報開示が望まれます。
また、金融機関は保証契約時において、形式的に保証金額を融資額と同額とはせず、経営者の資産状況等を総合的に勘案して保証金額を設定し、経営者に対して保証契約の必要性について丁寧かつ具体的に説明することとされます。
3. 信用保証協会
中小企業向けの融資では、信用保証協会の保証付きがかなりの割合を占めます。一般社団法人全国信用保証協会連合会の公表データによりますと、2012年4月~2013年3月の信用保証実績は76万件でした。国内の中小企業数が約420万社であることから、1年間で概ね6社に1社が信用保証付き融資を受けたという計算になります。融資期間が5年前後となることが一般的であることを考えると、数字上はほとんどの中小企業が信用保証付き融資を利用していることとなります。
本ガイドラインでは、信用保証協会も対象となる金融機関に含まれることが明らかにされており、本ガイドラインの効力は飛躍的に高まるものと考えます。
お見逃しなく!
本ガイドラインに沿って保証債務の減免・免除が行われた場合、経営者に生活費や自宅などの私財を一部残すことが認められます。この場合、金融機関による債権放棄が寄附金とされる可能性がありましたが、無税償却を認めて課税関係が生じないものとすることで、金融機関が債権放棄に応じやすくする措置が講じられます。
本ガイドラインに法的拘束力はありません。しかし、金融庁は全国銀行協会をはじめとする各金融機関関係団体等に対して本ガイドラインの周知徹底、積極的な活用を要請しました。検査・監督を通じて各金融機関においては遵守につき一定の強制力が働くものと見受けられます。