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民法改正の取引実務への影響~消滅時効制度の改正を例に~

法制審議会(法務大臣の諮問機関)の民法部会は、平成26年8月26日、5年間に渡る96回の審議を経て「民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案」(以下「要綱仮案」)をまとめました。この「要綱仮案」にさらに検討を加え、平成27年2月の法務大臣への答申後、通常国会に提出される予定です。

1. 民法(債権関係)が見直された理由

 改正を行う理由として、法制審議会への諮問において下記の二点が挙げられています。
1. 社会・経済環境の変化への対応
民法の債権編は、明治29年(1896年)の制定以来120年、ほとんど改訂されていないため、この間の社会及び経済環境の大きな変化に対応させる必要があること。
2. 国民一般にわかりやすいものにすること
専門家の間では共通理解となっている原則や基本概念、あるいは代表的な裁判例についても条文に明示し、国民一般にもわかりやすい民法にする必要があること。
このように、長期間に及ぶ社会経済環境の変化や、法律専門家でなければ容易に知り得なかった基本原則等を反映させる改正になることから、国民生活や企業活動に大きな影響が及ぶと予想されます。そこで本稿では、債権の消滅時効制度を例にとって取引実務への影響を検討します。

2. 消滅時効制度の改正について

 1.改正の概要
現行民法では、通常の債権は発生後10年で時効消滅すると定めるとともに、職業の種類ごとに1年から3年の短期消滅時効期間を設けています。しかし、職種ごとに異なる時効期間を設ける合理的根拠はなく、実務上も煩雑であるとの批判がありました。そこで、「要綱仮案」は、①職種ごとの短期消滅時効制度を廃止し、②債権は、発生後10年、あるいは請求権を行使できることを知った時から5年で時効消滅すると整理しました。通常の取引では、発生時点=請求権を行使できることを知った時になると考えられるので、債権は原則として発生から5年で時効消滅するというルールに統一されたといえます。なお、この改正により、商事債権の消滅時効期間(5年)を定めた商法522条はその意義を失うため、削除されることになります。
 2.実務への影響
このように、これまで短期消滅時効制度の適用を受けていた業種では、時効期間が5年へと長期化することになるため、債権管理に少なからぬ影響を受けることが予想されます。飲食店は1年、小売店は2年間などと、業種ごとの時効期間に応じて債権の記録を保存するシステムを設けている場合は、時効期間の長期化に伴いシステム変更が必要になる可能性もあるでしょう。その結果、コスト負担の発生、事務負担の増加も予想されるので、短期消滅時効の廃止を見据えた債権管理体制の構築を視野に入れておく必要があると思われます。

お見逃しなく!

 民法以外の特別法で独自に短期の消滅時効期間が定められている場合があります(例:保険料請求の消滅時効は保険法により1年間)。これらは、それぞれ独自の存在理由があるため、民法改正の影響が及ぶかは不透明です。しかし、未払賃金のように、労働者保護の観点から、民法の短期消滅時効(1年)を長期化(労働基準法により2年)しているケースでは、「要綱仮案」が規定する5年にすることが、法の趣旨に沿うとの主張もあるため、今後の労働基準法の改正の動向にも注意が必要です。

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